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<Category21-005 / 2008.11.05> 坂と道と時間が織り上げたタペストリーが街の記憶だと書いた。 そして、この時間は人の営みがつくり出すものであり、それが函館に流れている時間だと書いた。 このブログの読者の中には函館をご存知ない方もおられるだろう。 函館は江戸時代に既得権益でがんじがらめだった松前から離れ、北方漁場の開拓のために港湾整備が始まり、次第に現在の西部地区を中心に発展を遂げて行く。 このブログが取り上げている弥生小学校もこの西部地区にある小学校である。 函館の市電は十字街電停を過ぎると二つの方向に別れ、一方は三つ目の谷地頭電停で、もう一方は同じく三つ目のドック前電停で終わっている。 西部地区というのはこの十字街からドック前方面のエリアを指すが、谷地頭電停からドック前電停までの間には、この市電通りから山側に十八の坂があり、その一つ一つの坂がこのまちの栄枯盛衰や大火復興の長く重い歴史の記憶を今に伝えている。 さて、この十字街電停近くで繁盛していた函館ラーメンの老舗・鳳来軒が、35年続いたのれんを下ろして一ヶ月以上が過ぎた。 かつては素朴だった店が観光客相手に変貌したり、具が多くこってりとした味を売りにしたり、ダシに必要以上に凝ってみたり、高級ラーメンと化したりする店もある中で、この店の塩ラーメンは軽くちぢれた麺と、透明感のあるあっさりとしたスープに、チャーシューとネギとメンマをのせただけのシンプルな味とスタイルを守り続けてきた。 そしてそれを500円で提供していた。 昔ながらの味とスタイルを守り通した老舗の灯が消えたことで、また一つこの街に流れる時間をつくる人の営みが消えた。 有形無形にかかわらずまた一つこの街の記憶が静かに消えた。 しかしこの店は味が落ちたわけでも客足が減ったわけでもなく、店主が高齢により自ら店を閉じる決心をされたのである。 もしもこれが自らの意思ではなく他からの押し付けであったら、きっとこの店主も息尽きるまで戦ったことだろう。 人は消え行くラーメンの味は惜しむが、この思いを西部地区の片隅にある小学校にも向けて欲しいと思う。 古いから残す、古ければ何でも残す、そんなことに興味はない、と短絡的に背を向けないで欲しい。 命の小さな灯火を燃やしているもの、そのすべてがこの街の記憶だということ、そこに目を向けて欲しい。 [附 記] 都市景観審議会が景観形成指定建築物である弥生小学校に関する都市景観条例の運用について答申を出した。 つまり歴史的建造物の維持保存を目的に自分たちが決めた景観形成指定建築物の解体・新築に当たり、これまた自分たちがつくった函館市都市景観条例に抵触しないかという諮問を、これまたお抱え主要委員が仕切る都市景観審議会に委ねていた訳だが、その結果が抵触しないという行政寄りの答申だったということである。 都市景観審議会は15人の委員で構成されているが、本件に関しても委員の意見が賛否緊迫していたにも係わらず、この諮問結果の体たらくである。 このような都市景観審議会なら存在意味は全くない。 「 まちは生きていく 」の中で市の方針に反対して、文化財保護審議会の委員10人のうちの9人までが保存を求めて辞表を提出という記事を書いたことがある。 下関市における志士たちの決起の話である。 その最後を私は長州人と函館人の、この志の違いは一体どこにあるのだろうかと結んだ。 このような結果に対して、まともな景観審議会委員ならば、全員が辞表を提出するくらいの信念と気概はないのかと言いたい。 このカテゴリではこれ以上の言及は避けたいと思う。 詳細は以下の2つのブログ記事をご覧いただきたい。 ■ 弥生小学校~景観審議会は「基準3に適合」と答申 / 竹花いくこ たんぽぽ通信 ■ 官製談合事件/ ezzoforte
by yayoizaka
| 2008-11-05 12:26
| 21. 街の記憶
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